Polémica by WIRED + Loftwork

イノヴェイションは都市伝説?

林:そもそもね、いま多くの企業がイノヴェイションを求めていることに疑いはないんだけど、うまくいっていないところがあるとすれば、みんな「愛し方」を間違えていると思うんです。ラボみたいな空間をつくって、いつか来るイノヴェイションを待ちわびている。それって、報われない片思いみたいで(笑)。

若林:新規事業部をつくって、何か新しいことをやれと命令を出されても、それがストレスになってしまったら新しいことは生まれないと思うんですよ。

林 千晶(Chiaki Hayashi)1971年生まれ、アラブ首長国連邦育ち。早稲田大学商学部を卒業後、94年に花王に入社。97年に退社しボストン大学大学院に留学。大学院卒業後は共同通信NY支局に勤務し、米国IT企業や起業家とのネットワークを構築。2000年に帰国し、ロフトワークを起業。12年よりMITメディアラボ所長補佐を務めている。

林:10年前くらいに、ある外資企業の方が「日本の企業っていまでもネットの力を信じてないんですね」と言っていたことを思い出すんです。当時、欧米の企業がドラスティックにマーケティング費用をネットにシフトしていったのに対して、日本の大企業の多くはネットを一要素としてしか見ていなかった。いまもそれと同じで、どこもかしこもイノヴェイションブームだなんて言われるけれど、まだ成功は見たことがない「都市伝説」みたいなものでしかない気がする。それがもどかしい。だって本気でやらないと、現状の産業構造だけでは今後立ち行かなくなってくることは明らかで。

若林:本質的に日本の社会ってイノヴェイションには向いてないと思うんです。いい意味でも悪い意味でも保守的なところがあって。メディアを見ても、これだけインターネットが浸透したところで相変わらずテレビの影響が強かったりするわけです。とはいえ、それが一概に悪いわけでもない。だから、日本のローカルな環境の中でいくら海外の事例をもってきて移植しようとしてもうまくいかないところがある。ただ、日本独自の新しい文化はそこかしこで生まれていて、そこには多様性もある。マインドセットの部分で、ちょっとでも価値転換が起きれば、そもそも日本の企業は賢くて勉強熱心でもありますから、強力なパワーを発揮できると思うんです。

林:みんな本当はやりたいことが山ほどあると思うの。社会のために何かをしたいと考えている人は企業の中にもたくさんいる。ただ、その思いやアイデア実現の壁になるのが、数年後にそれがいくらの市場規模になるかという既存の評価基準だったりする。新しいビジネスモデルを考えようとしているのに、既存のルールや市場での数値を引き合いに出されたらどうしようもないわけです。日本には元来、会社は社会の公器と捉えるおおらかさがあったはず。改めて、世の中にいいことをしていこうという考えが広がってほしいと思います。